空気を満たすもの(「ONE〜輝く季節へ〜」ドラマCD長森瑞佳)

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 最近のふやけたぼくにはちょっとレベルが高すぎるようなONEの世界。寝転がって聴くのは悪い気がした。
 音楽は原作に数段劣るチープなアレンジ。長森の声はイメージよりやや高めで甘ったるい。確かKANONの秋子さんの人。そのずれは演技力と脚本の質でかなりカバーされていると思う。浩平の声がそんなに悪くないのもいい。
 話は長森の暗いモノローグと回想主体で進むので、演出的には説明しすぎが怖いところ。えいえんやみさおやみずかのエピソードがほとんど語られなかったことから来たんだろう一部を除けば、ほとんど違和感は感じられなかったのでうまくいっていたんだろう。
 「忘れてはいけないこと」。この意味は微妙に揺らいでいて、考察サイトとかでがんばっている言葉による説明をすり抜けていく。物語内の言葉を正確に理解していっても、言い換えてみようとするとなんだかずれている気がする。ある言葉に焦点を当ててみても、それは何かを捻じ曲げてしまい、物語の全体を覆い隙間を満たす空気を散らしてしまう。ヒロインたちはみんなそれぞれに異なった沈黙を抱えていて、それが物語を貫く音楽の中で浩平の抱える沈黙と響きあう。赤く染まった空を見てぼくが感じることと浩平が感じることと瑞佳が感じることは同じだろうか。その保証は全然ないのに、同じだと思わせてしまうところにONEの奇跡はある。断絶しているはずなのに。主人公が無色でないゲームの場合、君が望む永遠とか世界ノ全テとか家族計画とか、共感するにせよ反発するにせよ、普通だったら主人公の立つ場所が見えてしまう。理解できる。CLANNADでさえそうなのに、ONEの浩平の場合は、なんだかもっと曖昧に幽霊のように空気を満たす気配を持つ。設定のせいもある。語りが錯綜しているせいもある。このドラマCDでも、そんなに大げさにはこんがらがっていないかもしれないけど、それでもなんだか夢の中とか幽玄(で合ってるのか知らないけど)とでも言いたくなるような雰囲気は失われていない。川名みさき編や里村茜編もそうだが、真剣で丁寧な作品作りに感謝したい。幕切れの一言がとても印象的だ。
 ONEは、物語も登場人物たちも死の気配を感じさせる、幽霊たちの世界といえるかもしれない。食欲や性欲とは違った法則で成り立つ世界。永遠に繰り返され、そこにある世界。子供の時にはもっと身近に感じていただろう世界。ONEの音楽を脳内で再生させると、追想ばかりが鳴り響いて、自分が閉塞していってしまう。瑞佳の言葉を主体に作ったこのドラマCDは、そんな人に対するすぐ隣にある外の世界からの呼びかけなのかもしれない。