中村九郎『アリフレロ』

 確かに変わった、訳の分からない話だけど、期待していたのとはだいぶ違った。訳の分からなさが、主に設定の構築とすわりの悪い造語・固有名乱発の方面に発揮されてしまっていて、無駄に疲れる話になっている。バトルばかりだし、奈須きのことか同人SSとかそういう感じ。「神話」という言葉の使い方が最後まで一番引っかかった。意味を拡張するのは大いにけっこうだけど、あまり無造作に乱発せずにもう少し気を遣って欲しかった。読み手を労わらない「強い言葉」は宗教の経典とかドグマとかと文体に特徴的なものだけど、この物語の「神話」とか「ビップ」とかはそれほどの強いメッセージ性を帯びているようには見えず、単なる装飾的な部品と大して違わない感じだった。物語としては、仮面舞踏会じみたクリーチャー達のバトルと、ほどよい余韻のボーイ・ミーツ・ガール。主人公達にお約束の接近イベントがあったりするわけでもなく、お互い(というか片思いかも)を知ろうとしたりせずただ惹かれていくというのが小気味よく、潔い。物語の大部分はバトルなのでいまいちなのだが、それ以外でよかったところもあったということで。他の作品もこんな感じなら、僕は射程外ということになるけど。
 他の方々の感想をぱらぱら見てみて、本書がけっこう評価されていることを確認した。イメージ重視とは言ったもので、一番とっつきにくいのが、あるシーンが出てきてもそれが展開されずに、一発芸的にその場で終わってしまうので、それが大仰な言葉の無駄遣いか語りの体力不足として読まれてしまいがちだということ。それが例えば「神話」という言葉を解体してしまうための意図的なものだとしたら、ソローキンとかそういう人がやっていた作業と同じものとして理解できるし、あるいは、ただ走り続けるためにひっきりなしに繰り出され積み重ねられているものだとしたら、シュールレアリズムやイマジニズムが目指した疾走感・酩酊感と同じものなのかもしれない。どちらもあまり好きじゃないし、本作でそこまで鮮烈だったような気もしないが、そう考えると親しみがわく。