埋もれた昔を掘り返して完結させるという甘美な作業(るろうに剣心)

 働きたくないでござる、引きこもりたいでござる。というわけで、ニコニコ動画で日がな一日、というかまる二日、るろうに剣心を見ていた。TV版1-66話とOVAの追憶編・星霜編。マンガは当時としては集中線とかがなかなか迫力あり、無知な高校生にとっては適度に時代考証された細部も面白かったけど、あの読んでいてこちらが居心地が悪くなるようなベタな笑いのセンスや、なによりもすでにジャンプをあまり読まなくなっていたので、特に話を追うようなこともせず、目についたときだけ読むようにしていた。アニメも最初の数話は見ていた。ジュディマリのそばかすがえらく気に入ったことは覚えている。今見たら歌と絵がまるであっていないのは明らかだけど、オタクでもないしポップスなどまるで知らなかった当時の子供には、それに気づくことはなかったと思う。ちなみに、第2OPの川本真琴の「1/2」は今見ると、アニメとまるで合っていないラブソングと実写背景とアニメのキャラ絵の合成がおかしな感じで、テレビ放映をやっていた時代と作品の中の明治への思い入れのようなものが重なって、なにやら涙腺を刺激されそうになる。
 原作もアニメもどう完結したのか知らなかったけど、結局山場は京都編だったんだな。TV版はupされていた66話までしか見なかったけど、これ以降は本筋から外れるエピソードみたいなものばかりらしいし、66話は制作陣の交代からくるまとめっぽいエピソードだし、綺麗に終わっていてちょうどよかった。最後に星霜編を見れたことも。
 作品の技術的な面は真面目に考えてもあまり意味はないと思う。かなり子供向け。台詞回しは垢抜けないものが多く、テーマも掘り下げよりは反復が目立った。それでもなにやら心に響くものがあったのはなぜか。よく分からないので、とりあえず、バランスといっておく。フォークロア的な何かかもしれない。緊張と弛緩、緩急、泣きゲー的なオルゴールの思い出と痛みつけられ傷つくキャラたちの体と緩みきった笑い、だいぶ違ったニュアンスとはいえ、確かにあった明治という時代、アニメの中の明るくて笑いのある明治、それに影を落とすOVA版の明治。いくらでたらめで架空のものだとしても、あれほど主人公達が繰り返し、固執すれば、そこに巻き込まれ、共有することになる。こうして前提を受け入れてしまえば、後は古典的な起承転結さえ踏まえて情動的な演出を強調すれば、こちらはころりといかされてしまう。海賊の話、京都への出発の話、安慈の話などよかった。OVAの話も、絵こそ綺麗だけど、ストーリーはよく言えばストイック、悪く言えば単純で、作品全体としては見事な出来栄え。かつて自覚的なオタクになってまもなく、lainとかナデシコとか普通の学生は絶対に見ないようなアニメを漁っていた頃、るろうに剣心OVAだけはという高い評価は聞いていた(確かにこれなら機会があれば買ってもいいかも)。でも、TV版も見られてよかった。ある意味SFと同じで、歴史物という枠組みを使っている以上、様式も喜怒哀楽も含めたいろいろなものの落差と時間の流れの感覚が、軽く眩暈のするような余韻を生み出す。物量が質へと転ずる長編物の王道。剣心の初めから最後まで見て、彼がどこにたどり着くのかを見て、終わりになる。余韻が終わってしまえば、あとに残るのはメッセージなのかな。