対象a

 しばらく外に出ていなかったので、クリーニング屋にスーツをとりに行こうとして外に出た瞬間、遠くにある冬の夕空が目に飛び込んできて不意を突かれた。ああ、そういえば昔は馬鹿みたいに夕焼け空を眺めるのが好きだった、あのころが懐かしいな、と少しほろりと来た。
 クリーニング屋では店員のおばさんにいきなり「足が長い!」と叫ばれてびびった。向こうもなんだか驚いていた。スーツを出しに行ったときも気分がふさぎこんでいたけど、不意に、店の角にちょこんと鎮座していた、紫色の毛糸で編まれた赤毛のアンチックな人形が目に飛び込んできて、家庭的な雰囲気にやられかけたのだった。お店の名前は奇しくもサン「レモン」。
 スーパーに寄った後の帰り道ではもう暗くて、対象aの空はどこかに消えていた。