日曜夜の現実逃避

 Angel Bulletをやり始めて、ライアーソフト桜井光というライターは信頼できると改めて感じた。シャルノスは舞台設定等が個人的にツボ過ぎて贔屓目に見たかもしれないと思っていたが、なじみの薄い西部物でも十分物語の魅力を伝える作品のようだという感触。19世紀の野蛮なアメリカの乾いた空気と解放感に、その若い歴史の混沌と殺伐に、ちょっと懐かしさと羨望を感じる。今よりも娯楽なんてずっと少なかったはずの時代に、人はそれでもむしろ生き生きとしていたんだなあ、それに比べて自分の生き方のなんと鬱々としてつまらないことだ、などとなにやら教訓じみた感想を抱いてしまう。エロゲーなのであまりに安易に肌を見せてしまうというのが残念といえば残念だが、アメリカという田舎の元気な女の子ヒロインもとてもよい。シャルノスのメアリとは対照的な設定のはずだけど、セーラも彼女なりに可愛い。セイレムの魔女たちと同様、健気なヒロインのいるよき場所としてのアメリカのイメージだ。反射神経のない自分には戦闘パートが難しくてすぐゲームオーバーになってしまうのだけが残念だ。
 白光のヴァルーシアは今度は発売早々に買えそうだ。Angel Bulletはまだ始めたばかりなので分からないかもしれないが、桜井氏は物語作家として信頼できそうだし、アラビア風ファンタジーという舞台も楽しみだ。「バフチサライの泉」や「エジプトの夜」のようなプーシキンのハーレム物、クズミンやグミリョフの愛した聖女のいる砂漠、ワイルドやゴーティエの南方、千一夜、ハイヤームにハーフィズ…。調べればいくらでも豊かな砂漠文学の伝統が湧き出てくるのだろう。ねこねこの朱に劣らぬ作品を期待したい。