春萌 帆村淡雪

 うまく語る言葉が見つからなくて困るが、とても心地よい近さの感覚を与えてくれる話で、田舎らしい素朴なテンポで進む話を追っていくうちに、すっかり雰囲気にのみこまれて持っていかれた。店の手伝いとか、引越しとか、それだけのことでこれだけ心地よいお話になるのが不思議な気がしないでもないけど、どこに目をつけるのかでこれだけ変わるのかということ。こういう空気感はやはり人の出入りが激しい場所では無理で、こんなふうに静かだけどだだっ広いところで、毎日同じ人と顔をつき合わせているうちに、相手のリズムやペースになじんでいきながら、少しずつつくられるものなのだろう。初対面の人にも覚えてもらいやすい「キャラ」とか、お礼や謝罪や依頼などの強い言葉で周囲と自分を塗りこめながら、なんとかその日その日をまわしていっているような社会人には、ほしくても手が届かない生活だ。二人は田舎を離れる前に結ばれたけど、また田舎に戻ってきたのはそのためだ、などと安易に結論付けてみても意味はなく、一度結ばれればどこにいても関係はないのだろう。都会に出たがっていたのは消えた主人公の代償だとか、髪を伸ばし続けていたのは情の深さの表れだとか、そういう記号的な読み方もできるのだろうが、それよりもこの広くて寒い土地で互いのことを思いながらつつましく生きていく、その幸せの感覚のほうが印象的だ。エロゲー的などぎつい設定は控えめなので、幼馴染という元来地場性の強い属性がよく生かされている。りるけルートの余韻は素晴らしかったが、この淡雪ルートもトゥルー感が濃くて幸せな気持ちになった。