いきなりあなたに恋している (70)

 タイトルからしていい加減な肩のこらないキャラゲーだけど、思いのほかしっかり作ってあってさすが素晴らしき日々を出したメーカーだった。シナリオが云々みたいなのに関しては特に言うことはなく、どのヒロインのルートも飽きさせずコンパクトにまとまっていて楽しめた。特に、本人に劣らず小さくきれいにまとまっていた紡ルートのコンパクト感がよかった。紡は主人公との幼少時の思い出的なエピソードがないし、校務員の環境に至るまでの経緯も触れられていない。胤も家庭環境を掘り下げた描写はなかった。そういう「言わないこと」で今の幸せの大きさが感じられるつくりになっていたのがよかった(涼と詠歌は少し重たかったけど、4人中の2人なのでバランス的にはちょうどよかった)。紡ルートといえば謎の恋桜先生だが、この人の表情は見ていて飽きなくてよかった。恋桜先生は絵だけではなく声もよかった。というかこの作品は全体的に声優さんたちの演技にためがあるというか、しっかりしていて、声の質もとてもよかった。そういうのを意識したテキストライティングなのだろうか。かわしまりのさんがうまいのはいうまでもないとして、涼の声(楠鈴音さん)の低さが素晴らしかった。あとは胤(如月葵さん)の声も男言葉とは裏腹にのんびりしたやわらかい声で素晴らしかった。エロゲーで男言葉ヒロインというとどうしても一定のイメージが付きまといがちだが(あえて挙げるとパロディネタで引っ張られていた智代とか)、こういうやわらかい声を持ってくるセンスが、かゆいところに手が届くようでありがたい。今までやったゲームで楠さんのヒロインといえば、人妻コスプレ喫茶2の桜子とクロスチャンネルの冬子、如月さんだとすばひびの司と姫さまはプリンセスのクリスティンだそうで、そういえばクリスティンの声は耳に残っているが、これまで声優さんの名前は特に認識していなかった。あとはまあキャラデザか。そもそもこの作品が気になっていたのは、PVで見た涼の顔、特に、前髪が短くて睫毛との間に絶対領域的なものが出来ているのに目がひきつけられたからだった、という人はけっこういるのではなかろうか。一枚絵に意外と(というと失礼だが)きれいなものが多かったのもよかった。BGMは「フォトグラフィ」と「みんながいるとき」というのが一番印象的だったが、これら日常シーンのBGMが耳に残ったというのが特徴的。冒頭、頭のねじが飛んだようなハーレム設定で始まり、これらの爽やかに少し狂った曲が何気なく流れたときには、Winters作品的な意味でテンションが上がった。タイトル画面でこれまたやや狂った曲が流れて、ヒロインたちが穴の開いたような大きな目でこちらを凝視しているのにも、起動するたびに見とれた。「〜だろ、普通」、「いや、変な意味じゃなく」などといっているうちにいつの間にか変態むっつりに仕立て上げられていく。そのとぼけた展開が心地よく(「心地よい」とか言うと必ず勘ぐってくる妹がいて、その妹が後で自爆するのを見て共犯関係的な心地よさを感じて癒されたり)、個別ルートでのヒロインたちののめりこみっぷりが可愛く、なんというか、見たいところだけ見せてくれるようないい作品だった。別にこってりした心理描写やハードに構築された設定やストーリー展開がなくてもいい。可愛いヒロインたちが幸せそうに喜ぶのを見せてくれるだけで、こちらも少しだけ幸せになることが出来るのだから。・・・という賢者モードでいると、からんできたり、一緒にほのぼのできたりするんだろうな。