さくらむすび (70)

 水仙花のせいか就活のせいか知らないけど、気分が沈んでいたので、柳瀬訳のフィネガンズ・ウェイクをちょっと読んでリハビリ。その後、さくらむすびを再開、コンプリート。あー最近エロゲーやりすぎ。というかエロゲー以外やらなすぎ・・・


 期待していたような広がりも深さもなく、空振り気味・・・・・・と思っていたら、フェイントに引っかかっていたらしい。ブラコン・シスコン・いちゃいちゃ・桜のモチーフということで、神話的な女性原理・母性原理の世界にトリップできるかと思っていたんだけど・・・。
 最後まで男性主導で、腐り姫のような恐ろしいまでの女性のエロスが発揮されるようなことがなかったり(桜シナリオ)、ストーリーがヤマなし・オチなし・イミなしだったり(可憐シナリオ)。初めにやった紅葉シナリオは割りとまともだった。しかし、親の世代の話はあそこまでこんがらがらせる必要があったかは疑問。一度読んだだけでは誰が誰だかよく分からなかったし、そもそも演劇のイベントは、練習を通じて二人がさらに仲良くなれたという以上の深い意味はなかったように思う。いってしまえば、まったく別の戯曲を取り上げてもよかったと思う。
 テキストについて。水月は未プレイだけど、面白く読めるゲームらしいということで今作には期待していた。蓋を開けてみると、期待はずれ。細やかな気遣いがときどきうまく表現されていたり、Hシーンの描写がユニークだったりしたことはよかった。だが、全般的に、会話が説明くさくて、みんな一言か二言余計にしゃべりすぎ。会話にキレが全然ないのだ。特に男の友達二人が主人公の女々しい恋バナに絡んでくるのはいろいろと違和感があった。イベントや物語の楽しさを切り捨てた本作では、仲良しグループ内での相互の思いやりトークと、主人公とヒロインのいちゃいちゃ描写に、テキストは集中していおり、その禁欲的なまでの集中振りに、娯楽性が減っているように思えることさえあった。しつこすぎるのだ。バカップルぶり・いちゃいちゃぶりを高水準で表現するのって相当難しいんだなと思った。ふつう恋愛系のエロゲーでは(エロゲーだけじゃないけど)、二人がいかに相互理解にいたるか、いかに幸せを手に入れるかまでを描くことがメインで、そのクライマックスにHシーンがあって、そのあとは「そして二人は幸せに暮らしました」あるいは「娘は幸せを手に入れたので、もう思い残すことなく死んだのでした」みたいな感じで終わってしまう。肝心のいちゃいちゃ部分はSSなどの同人的な活動で補完されることが多い。そういう意味では、さくらむすびはスタート地点からしてすでに同人的で、二人の関係は早々にマックスに辿り着いてしまうので、何かの波乱を起こす必要がない(桜バッドエンドなどはもっと面白くできたと思うが、禁欲的にあっさり終わった)。そして本作でのいちゃいちゃ表現は、もちろん本人たちの二人の世界の描写という肝心な部分がないわけじゃないけど、それとは別に、周りが二人をどう見てるかの報告、二人を見てニヤニヤしてることの報告、それに対して二人が照れたり開き直ったりすることの報告、これが多すぎる。二人だけの世界を楽しく書くだけの筆力がないから、外堀を埋めることでお茶を濁しているように思えてしまう。そして、二人だけの世界を描くときはシチュエーションによる演出が多くなっているのだ。もっと言葉そのもので萌えたかった。「幸せ」とか「好き」とかそういう単純な言葉じゃなく。そりゃあ、感極まったときにはそういう言葉が一番雄弁だって言うのは分かるけど、でも声なしなんだし、ちょっと物足りないと思うのは贅沢か。多少電波で手もいいから、もっと二人だけの言葉の世界を!ベタベタするのも言葉あってこそ映える!周りなんぞ気にするな!もっと蜜語と密語を!!(何をこんなに力説してるんでしょうか。)
 グラフィックについて。箱を手にしたときは、この絵に慣れることは絶対不可能だと思っていた。あのロゴの丸字も冷静に考えると終わってる。しかし、いざ始めてみると立ち絵がすごく可愛くて降参。紅葉の目力はすごいし、可憐が私服で出てきたときには本当に喜びのため息をついてしまった。また、ロリヒロインならぬ幼女ヒロインは初体験だったので、桜のHシーンでは、「注意深く探ればわずかに膨らんでいるように思える」とか言って真剣に愛そうとしている主人公や、彼の一物を本当に「車のギアを握るように」つかんでいる絵などには笑ってしまった。
 音楽は、ピアノの音が多いのはよかったけど、どの曲も雰囲気が似ていてメリハリがなかった。単なる説明的な文章が続くときも甘い曲が垂れ流されているのはどうだろうか。曲自体は悪くないので、サントラとかで聴く分には楽しめるかもしれない。
 というわけで、僕にとってはこの作品は、いろんな要素を禁欲的に刈り込んだ結果、可愛い立ち絵のヒロインが甘い音楽に乗せて甘い言葉を話してくれることと、Hシーンのヒロインがこれまた可愛らしい、ということ以外にはあまり中身のないゲームだった。彼女たちのおしっこや愛液のように甘くて透明な存在感、それは物足りないかもしれないけど、植物のように静かなそれなりの存在感でもある。



 追記。
 neconecoさん他が書いておられるように、主人公の母親が部落出身者で差別されていた、そして作中ではそのことがすっぽりと隠されている、ということを考えると不気味度が上がって面白くなりますね。僕個人には部落問題というのは遠すぎて何の実感もないけど、それは主人公にとってもそう。形而上的に歪んだ世界の物語。この一点でつまらなさを弁護できてしまうのはずるい気もするけど。あと、桜実妹説と可憐実妹説も気になる。もう少しちゃんと読んでみる必要がありそう。
 それから、テキストについてだけど、2chのスレを見て、どんな読み方をすればもっと楽しめるか参考になった。言葉そのものにこだわりすぎていたことを反省すべきかもしれない。萌えゲーマーとしては、言葉に切れ味はなくても、描かれている情景を想像して膨らませていくことを忘れてはならなかった。