ほの暗さ(神樹の館続き)

 雨が屋根を叩く音が止まらない。本がたくさんあることと、最近草や木が家を蔽うように繁茂してきていること以外には、真珠邸とは似ても似つかない裸の現実があるだけの我が家で、その現実から目を逸らしつつも逸らしきれず、無駄に凹んでいるだけの無気力な僕。本当は一生懸命履歴書を書かなくちゃいけないんだけど、その前に神樹の館のメモに逃避。
 斎・伊美ルートは、前半のテキストがよかった気がする。エロゲーの日常描写は、周りの事物とかに対して主人公が一言二言漏らすコメント的な「逸脱」がよくある。この主人公の観察が今作では割と力が入っているのがよいわけだけど、斎・伊美ルートでは懐かしいものがけっこうあってよかった。主人公との年齢差が「何とか一桁に収まっている」可憐なヒロインたちを、主人公はじっくり過ぎるほど丁寧に見てくれる。何分も真正面から見惚れていて相手を困惑させるほどに。小学校高学年から中学校頃の僕たちが見ていた、というよりは触覚的に感じていた、成熟前の少女たちのほの暗い色香へと、主人公は感覚を沈潜させる。くわばらくわばらとか言いながらちゃっかり言及されているナボコフでは、僕が読んだのはずっと昔だけど、ロードムービーやスナック菓子にまみれた白人少女についての「触覚的」な記憶を僕は持っていなかったこともあり、ニンフェットの世界への沈潜ではハンバート・ハンバートにはついていけなかった気がする。その後何年もしてから、実際に12-13くらいの可憐なロシアの白人少女のそばで(もちろん二人っきりじゃないけど)しばらく過ごす機会があった。やせていて性的な香りはほとんどなく、一人で歌ったりするのが好きで頭の回転が速い、本当に可愛い女の子だった!言語的な壁もあって、僕はほとんど見惚れる暇もなく翻弄されるばかりだった(正確には、翻弄されるほどかまってもらえなかったけど、それはおいておく)。しかしこの場合は、すでに大人の僕が可憐な少女を見るわけだから、懐かしさとかそういうのではなかったと思う。しかも雲のなく晴れ渡った、大陸の夏だった。
 それはさておき、斎と伊美は日本人なので助かる。「子供」ルートを進めていたおかげか、洋館の雰囲気もまた味わいがあったような気がする。絵のほうは、廊下が明るすぎたり、陰影が直線的過ぎたり、事物が押し黙ったような静寂が感じられなかったり(これは音楽のせいか)と、不足はあったけど、テキストはなかなか良く、自分の昔の記憶とかもぼんやり思い出したりした。洋館に住んだことなんてないから、これは半ば捏造された記憶だろう。エロゲーには子供時代の回想シーンとかがよくあるけど、それはたいていは言葉のやり取りの記憶だったり描写が平易だったり。今作では子供の頃の五感の記憶も、少しとはいえ、思い出すことになってしまった。あーどうでもいいこと書いてるな。まあ、前半部分はそんなわけだった。斎や伊美を愛するという中盤はちょっとついていけないところもあったけど、終盤から結末はよかった。二人の運命を思った。その先は今ゆっくり進めているけど、どうなることやら。