りとる天使 〜カナタはみんなのヌキヌキえんじぇる〜 (65)

 一般論として、世のファンディスクや続編と呼ばれるものが本編との設定的な整合性を壊さないよう配慮されたものであればあるほど、読んでみると安心感はあるものの物足りなさを感じずにはいられない。新しい境地が切り開かれないと読み応えを感じられない。この作品はファンディスクではないけれども、他の作品の登場人物が別の設定で別の世界で同じ問題を抱えて出てきている。ファンディスクは登場人物たちに対する製作者の愛情を前提に出来ており(ファンなのはユーザーというよりはむしろ製作者というか)、それを共有することがユーザーにも求められるという面があると思うのだけど、HAIN氏のゲームではもとから登場人物に対する製作者の愛情が本編の大きなテーマのひとつになっているので、本編自体にファンディスク的な要素が強くて、「本編の本編」とも言うべき基幹的な物語は描かれない。エッチシーンに本番(本編)が比較的少ないのも関係あるとかないとか。合ってるか怪しいボードリヤール風の喩えを持ち出すならば、それはオリジナルなきコピー群であり、毎回同じ神話を読んで同じ反応をするというシミュレーションを繰り返すうちに現実は崩壊してハイパー現実に覆われて、崩壊した現実の幻影に縛られるみたいな怖い話になるのかもしれないが、エロゲーでそれをやって何が悪いのか、むしろそれほどの強度を持つ物語系が何年もかけて構築されていくのに立ち会えるのはよいことなのではないかとも思いたくもなるところ。というのが本作品の感想(?)で、あと表象的な部分ではカナタの絵とエネミの声が良かったことは覚えておきたい。エネミは絵も無駄に可愛くてよかった。xxxxのくせに可愛いとか、万能の安全装置の奇跡に感謝。