夜のひつじ『堕落ロイヤル聖処女』を読み終えてしまうのが惜しく、内容的に関係がありそうに思えたアントナン・アルトー『ヘリオガバルス、あるいは戴冠せるアナーキスト』を取り寄せて読んでみた。実際にはあまり関係はなさそうで、とはいってもまったく無関係ではなさそうなのだがそのあたりは後日作品感想で触れるかもしれないとして、奇書といわれる本書は、個人的には訳文(鈴木創士訳)がひどくていまいち入り込めなかった。訳語の選び方、句読点の使い方、語順、リズム感などがことごとく日本語として不自然で不親切で、大学生の逐語訳を読まされているようだった。原文のフランス語が透けて見えるような文章は意図的なものなのかもしれないが(鈴木氏は哲学寄りの訳書が多いので逐語訳的な厳密性にこだわっているのかもしれない)、これはとても幸せな翻訳とはいいがたい。といっても僕は原書を読めるわけでもないし、旧訳と比較したわけでもないので、無責任な印象に基づく感想なのだが、僕が以前に小説の翻訳を出した時の編集者なら赤を入れまくっていたに違いない訳文だと思った。ついでに、難解とされている他のフランスの思想書なども、きちんとかみ砕いて訳せばもう少し身近なものになるような気もした。そんなわけで入り込めずに流し読み気味になってしまったのだが、内容については特筆するところはなかった。昔ドゥルーズだかの本で読んで抱いたイメージを出るものではなかった(器官なき身体とかはドゥルーズらの発明概念なので出てこないのだが)。ヘリオガバルスがシリア出身で皇帝となってローマに凱旋したとか、当時のシリアの女系社会と宗教のこととか知らなかったので興味深かったが。
話が変わるが、愛聴するアニソンがたまってきたので簡単に感想を残しておきたい。基本的にはニコニコ動画で無料放送しているもののうち面白かった作品の気に入った歌のデータがアマゾンでばら売りされていれば買い、通勤時などに聴くという付き合い方をしている。帰りに聴くとリラックスできることが多い。以下、おおむね買った順に。
●Colorful☆Wing(ガーリー・エアフォースED):シャープな電子音が心地よい。北都南さん系というのかな、どちらかというと幼い感じが多い声の編集の仕方もきれいで、合唱もよい。「ふーらーぐ」というあたりで気になってはまってしまった。確かEDアニメーションも清涼感のあるよいものだった。森嶋優花、大和田仁美、井澤詩織。
●それゆけ!恋ゴコロ(超可動ガールズOP):声がヒロインのフィギュアのこのイメージに近く(実際には違う人が歌っている)、電子音の処理がうまくて可愛らしい声なので買ってしまった。メロディが古く(ついでにいうとキャラデザも古い)、子供の頃に聞いたような、あるいは歌詞も含めてゼロ年代の秋葉原で聞いたような印象を受ける。「はーらはらどーきどき」のあたりとか。フィギュアと暮すオタク青年という作品の主題的にも懐古的で後ろ向きであり、影があるので少し寂しいけど、それは明るさでしか表わせない寂しさであり、そのあたりにゼロ年代感がある気がする。A応P。
●憧れFuture Sign(Re:ステージ!ドリームデイズ♪ ED):それぞれの声の個性のバランスがよい(声だけでなくアニメのキャラクターもよかった。特にかえちゃん)。歌詞も前向きでよい。「迷子の大好きさん」というのがよく、脚韻を踏んでいる前行は僕の頭の中では「憧れフューチャーさん」になっている。KiRaRe。
●ユメシンデレラ(荒ぶる季節の乙女どもよ。ED):アニメ作品中では脇役だったが、声優の麻倉ももさんの声が素晴らしく(詩月カオリさんと似た感じ)、声を引き立たせるような曲になっていると思う。疲れたときによい。特に2番の序盤の力の抜けた声が取り留めのないおしゃべりのようで素晴らしいが、声を張っているサビの部分も悪くなく、よい歌手だと思う。
●ヒロメネス(SHOW BY ROCK!!ましゅまいれっしゅ!!OP):アニメ作中でエモい言われていたが、ギターの音がきれいでメロディ、盛り上がり方が心地よい。そしてなんといっても4人の声がよい。特に遠野ひかるさん(ほわん)と和多田美咲さん(デルミン)が好きだが、夏吉ゆうこさん(ヒメコ)と山根綺さん(ルフユ)もよいフレーズがある。デルミンの「あの日の陽炎」は聴くたびにHPが回復する。遠野ひかるさんのやわらかい裏声に目覚めた。
●キミのラプソディー(SHOW BY ROCK!!ましゅまいれっしゅ!!ED):ヒロメネスに比べるとメロディの美しさは劣るが、楽しそうな雰囲気が良い。マイラバのアッパー系の曲(Shuffleなど)を強く想起させるメロディと音色。「こーころにー」とか。EDアニメーションも楽しげだった。ルフユの「もうもどーらないー」が可愛い。デルミンが声を張り上げているのも可愛い。
●歩いていこう!(恋する小惑星OP):飾らない歌詞を東山奈央さんが一生懸命歌っていて励まされる。作中の担当キャラのイメージとは少し違うけど、そのずれがまたよいのかもしれない。東山さんの歌のお姉さん的な素直な声。アニメ作品もささやかな夢を追いかける女の子たちを描いていてよかった。OPアニメーションではみらの目の中に星空が広がるカットがとても美しい。
●夜空(恋する小惑星ED):こちらはとがった個性はないけど優しい歌で、アニメEDでの入り方がよく、女の子たちの後ろ姿と星空を描いたアニメーション自体も雰囲気がよく、思わず聴いてしまう歌だった。鈴木みのり。
●Have a nice MUSIC!! デルミンver.(SHOW BY ROCK!):デルミン(和多田美咲さん)の声をもっと聴きたくて買った曲。持ち味の低めの静かな声のパートはなく、幼女が一生懸命声を張り上げているみたいな歌になっているが、これはこれでよい。
●nameless story(とある科学の超電磁砲T ED):岸田教団&THE明星ロケッツの歌を久々に聴いた。昔は東方風神録のアレンジ曲を歌ったのをよく聴いていた。アニメの方はマンネリ気味なのかもしれないが、毎回それなりに引き込まれて観ていた。ヒロインである食蜂操祈をめぐる物語で、その余韻がよかったので買った歌。歌は「この思い出の向こう側にたどり着けばいい」という部分の盛り上がり方が素晴らしい。
●ようこそ!ヒミツの雀バラや!?(おまたせ!雀バラや♪OP):アニソンではないが、なんかふと聴きたくなってアマゾンで探したらあったので。ゲームは知らないし、麻雀も全然知らないけど。こういう中華系の歌がジャンルとして存在するなら聴いてみたい気がする。MOSAIC.WAV.
●ハイファイ新書(相対性理論):アニソンではないが。シフォン主義と天声ジングルも買ったけど、今のところはこれが一番よい。ずいぶん前の曲だけどあまり古さは感じさせない。そもそも90年代の空気を歌ったアルバムだし。やくしまるえつこさんの歌はこれまでルル(電波女と青春男ED)とノニエル・少年よ我に帰れ(輪るピングドラム)を聞いたことがあり、それなりに印象に残っていたけど、アニメにそこまではまらなかったこともありそのままになっていた。ハイファイ新書はコンセプトがはっきりしていて面白く、歌も歌詞やメロディや声の吸引力が高い。でもこういう建設的ではないが完成度の高い遊びは一回だけの禁じ手なのかもしれない。これにはまっている限り前には進めないのだろうが、他方でとんでもなく繊細な感性を凝縮した逸品にも思える。
●シャボン セレナver.(バミューダトライアングル 〜カラフル・パストラーレ〜ED):ヒロメネスの遠野ひかるさんの裏声をもっと聴きたくて調べてたら出てきた歌。そして堪能。何気に歌詞もけっこうよい。海の中で静かに暮らす女の子(人魚)たちを描いたアニメで、カードゲームのスピンアウトであることを知らなかったので、視聴していた時には何で最後に彼女たちが歌手になるのかわからなかったが、それはともなく、雰囲気のよいアニメで、EDもよかったことを思い出した。「ふわふわ この空に浮かんでく/七色 虹の色 映し出し/キラキラ 光ってる海も越えて/皆で見てる夢は まるでシャボン」何回でも聴ける。
この先もよい歌にめぐりあえますように。