声の引力

 上坂すみれさんの色っぽい音声作品が出たと知って久々にDLsiteの同人音声をいろいろ見てみた。すると澤田なつさんやかわしまりのさんや杏子御津さんの18禁作品もあると分かり、思わずいくつか買ってしまった。いちいち声優さんの出演作に知っているものがないか調べたりサンプル音声をたくさん聞いて回ったのでこれだけで2~3日かかったが、それはそれで楽しい時間だった。これに合わせてそろそろ限界が近かったイヤホンも新調した(2000円くらいのから3000円くらいのに強化)。
 一緒に「ものべの」のスピンオフ音声作品(非18禁)も買ったが、これは声優が多少聞いたことがある鈴谷まやさん(Pretty Cationの小町先生とか帝都飛天大作戦の瑞城お嬢様など)だったことと、彼女が演じるヒロインの雪御嬢という雪娘の熊本弁が可愛らしくて懐かしかったことに惹かれてだった。僕自身は九州の方言はしゃべれないが、親の実家があるので子供の頃に熊本弁に近い方言を聞いていた。だからしゃべるのはお年寄りやおじさんばかりで、若い女の子がしゃべる熊本弁をじっくり聞いたことはないので、不思議な親しみを感じることができる幻想の言語だ。僕にとってはお年寄りが特に重要ではないような世間話をするのんびりした言葉なので、のんびりしたあやかしの言葉になっても自然だ。ちなみに雪御嬢のゆきの出身地は最近洪水被害があった人吉の球磨だそうで、念のため僕も親に実家の安否を確認したりした。
 DLsiteではものべののメーカーが気前の良いセールをやっていて、雪御嬢の音声作品を1200円くらいで購入したら、1万円くらいするようなものべのハッピーエンドが無料でついてきたので、これも少しやってみた。堕落ロイヤル聖女は低価格作品ですぐにエッチシーンになって終わってしまうのでもったいなくて(それに家人がいると落ち着いて楽しめないので)なかなか起動できないが、ものべのは大作らしく当分エッチシーンはなさそうなので気楽に始められる。発売当時はいまいちピンとこなかったので流していたが、四国の山奥を舞台にけっこう設定にこだわって作った作品らしい。テキストは冗長でスピード感がないので、昔の自分がスルーしたのは無理もないが、今なら無料で入手して気軽に楽しむ分には行けそうだ。杏子御津さんの声は好きだし。タイトル画面の雰囲気もよい。イヤホンのせいか、BGMも心地よい。
 音声作品は、結局上坂さんのは今回は買わなかった。彼女の活躍をかげながら応援してはいるし、ついに彼女の色っぽい声をじっくり堪能できる作品が出たのは大変喜ばしいのだが、彼女の声自体は僕にとっては澤田なつさんやかわしまりのさんより先には来ないので、まずは純粋に聴きたい声を欲望の赴くままに選んだ。
 音声作品は長い。なぜだか耳掃除や耳舐めが定番になっているらしく、寝転がって目を瞑って聞いているといつの間にか眠ってしまい、気がつくとエッチなシーンになっていたりして、前に戻して聞き直しているとまた眠ってしまう。かわしまりのさんの「うたかたの宿」というシリーズの秋、冬、春の3作を買ったが、全部きちんと聴こうとすると1日が終わってしまう。しかし大変エロい。残念ながらエッチパートは薄いが澤田なつさんの声も相変わらず素晴らしい。久々に現役のエロゲーマーだった頃に戻った気分だった。
 そうして賢者モードになっていると、ついに家人が妊活を始める準備が整ったと言ってくれて(ずっとご機嫌取りをしていたのが報われたかな)、このタイミングかよと心の中で天を仰いだ。エロゲーマーとしての自分と家庭人としての自分の両立が試される時が来たと奮い立ったつもりだったが、その日は僕のコンディションが回復せず誠に残念な結果に終わった。これがいつか笑える思い出になればよいのだが、お互いに適齢期は逃しつつあり、持病もあるので難しいことも分かっており、なんだか不穏なスタートになってしまった。ハッピーエンドになるようがんばりたい。
 そして性懲りもなく同人音声の話に戻る。その他に、DLsiteのランキングで圧倒的な人気を誇っていた伊ケ崎綾香さんのかなり過激なエッチボイス作品も買っていた。彼女自身がシナリオも手がけたそうで、「本物を持っている女性が作る音だからリアルなのは当然ですよね」という力強い宣伝文句に好奇心が刺激されたということもあるし、ユーザーレビューでも彼女の音声表現に関する探求心の高さを称賛する声が大きかったということもあるが、要するに純粋なスケベ心からだ。4時間半の大ボリュームだそうだ…。
 まだ作品は聴いていないのだが、今日になって急に伊ケ崎綾香さんの名前に聞き覚えがあった気がして確認してみたら、なんと8年前に僕が声優さんに本名を呼んでほしくて台本を書いて音声作品を作っていただいた声優さんだった。その時の日記のエントリはご大層に「声の力」と題されている:

 ……音声作品にはCGの他に「台本」のファイルも同梱されていて、思い立ってこの台本を改造して同人声優さんに自分専用の音声作品を作ってもらうことにした。ちゅぱ音とか喘ぎ声とか、とても自分でゼロから書くのは無理なので台本があるのはありがたかった。
 一番の目的は、本名をたくさん呼んでもらってエロい声を堪能したいという弁護のしようもない煩悩まみれの欲求で、あらためて自分で書いた台本を見ると声優さんに申し訳なくなる。言い訳じみた宗教ネタを入れて少しストーリーと設定を工夫しては見たけど、性欲丸出しであることには変わりなく、次に進もうにもまずはこの願望を叶えてみないと始まらないと自分に言い訳。「萌えボイス」というサイトには600人以上の声優さんが登録されており、相当な時間をかけて200人ほどのボイスサンプルを聞いた中からこれぞという人を選ぶ執念に我ながら感心し、思い切って申し込んでみて、演出や設定に関する声優さんとのやりとりの細やかさにちょっと感動している。これが2回目3回目と慣れればもっと違ってくるのだろうか。まだ作品が出来上がっていないのでどうなるか分からないが、1文字2円の方に5000字弱をお願いしたのでエロゲー1本分強ですみ、十分お手頃な楽しみのような気がする。感想はたぶん書かないけど(書いて切り離したくない)、まあ万が一何か書いておいた方がいいことでもあれば。それにしてもこういうニッチな産業(しかもまだ発展途上)があるのを目にすると、性欲ってのはすごいなと思う。

 伊ケ崎さんは多分当時も界隈では知られていたと思うが、現在はさらに大活躍しているようで喜ばしい。2015年くらいから商業活動もされているとのことで、今ならもうこんなふうに制作を依頼することはできなそうだ。他の作品も買ってみようか……。この僕だけの作品は恥ずかしくて何度も聴けずにウォークマンの中に眠っていたが(1回聴くだけでも濃密な体験で、そのことに慣れてしまうのも何だか嫌だった)、この機会にこっそり聴き直してみるのもいいかもしれない。どんな気持ちになるだろうか。録音の品質は現在の作品よりだいぶ悪いけど、今の僕にとっては何か声以上の声が聞こえてくるのかもしれない。