NHKにようこそ!第6巻

NHKにようこそ!(6) PCゲーム「True World?真実のセカイ?」付き初回限定版


(ネタバレあります)


 このテンションでもまだ「助走」と言える滝本先生の充実ぶりが我がことのように嬉しい。そして、佐藤よりも一足先に「ファーマー」になってしまった自分に不安のようなものを感じる。エロゲーに神を見出し、その神が殺され、それでもエロゲー生活ごっこを続けた山崎は、そんな「青春」を抱えたまま人生の次のステージに進んでいくしかないのだろうか。僕もこんな風に趣味でオタクなんてやってないで、もっと真面目に自分を追い込んで生きていかなければならないのだろうか。そうしないと心の平安も「形ある永遠」も得られないように世界はできているのだろうか。
 マンガにしろ付属のゲーム「True World−真実のセカイ−」にしろ、エヴァのパクリだと言ってみても実りがない。ワイルド先生の言うように現実は虚構を模倣するし、一度起こってしまったことは不可逆で、切り離して分析してみても意味のないこともある。それっぽいモチーフたちは、僕の現実にも関わっているこの作品の中で、安易な引用ではなく見事に機能しているように感じた。ゲームはその制作上のもろもろの制限を器用すぎるくらい上手く昇華している。まずひとつ思ったのが、いわゆる「エロゲー主人公」や定石となっている設定たちが、滝本竜彦の世界ではこうも切実な意味を担っているのかということ。無神経で頭の鈍い主人公達が嫌いだったけど、萌えゲーマーの中には佐藤に劣らず必死に現実世界から逃避していた人たちもいたのかと思って、あのダメなエロゲー主人公達をちょっと見直しそうにさえなってしまった。おまけフォルダに入っていたD.C.のプロモがなんか説得力あった。ちなみに本書を読んで本作をやったあとにそのまま「幼なじみな彼女」を続きを少しやったけど、やっぱり主人公への違和感は拭うことはできなかったし、濃密なエッチはそれなりに楽しんだ。何だかNHKやTrue Worldを読んでいたときは少し違う脳に切り替わってしまっていたみたいで、自分のエロゲーマーとしての才能のなさが悲しい。今度は佐藤みたいにドラゴンボールの瞬間移動のポーズをとって精神統一をしてみようか。
 2周目の演出については、こちらもエヴァに劣らず安直かもしれないけど、プーシキンの『エヴゲーニイ・オネーギン』を引き合いに出しておこう。プーシキンの場合は決闘で撃ち殺されたための絶筆というおまけをつけることもできるかもしれないが、それはともかく未完成という形式は、ミロのヴィーナスにしろ浄瑠璃の黒子にしろ、この三次元という枷をはめられた現実の中で、もっと高度な何かを表現するための王道的なパターンである。その恥ずかしいパロディにならないように、うまくそのパターンに息を吹き込むのが価値ある創造行為。ゲームの2周目、ほとんど読まずにCtrlキーを押しっぱなしだったけど、あの線や文字が発している魔力は強烈なものだった。腐り姫未来にキスをやパンドラの夢など、立ち絵が「生きている」良質のエロゲーが湛えている魔力。今回は絵とプレイヤーとの関係が一段と捻れているのでまたひとしおに。ESへのいつもの投稿ならば80点をつけるところ。やはり作品の規模が小さいことと、サーカスのスタッフロールで何だか読後感がぬるくなっているあたりをマイナスとする。「らくえん」が示した物語は解の一つに過ぎない。True Worldのほうが大胆であることは言えると思う。あとは好みの問題。
 そして繰り返しだけど、こんな作品を見つけた自分が、もう中途半端な社会人になっていることがなんというか、皮肉だ。いかんともしがたい真実の世界。こういうときは笑えばいいのだと思うけど・・・