西尾維新『ニンギョウがニンギョウ』

ニンギョウがニンギョウ (講談社ノベルス)

ニンギョウがニンギョウ (講談社ノベルス)

 主人公が慣用句やらことわざやらをこねくり回すのが好きということを除けば、あとは展開がいちいち不条理とはいえ、プロップですっぱり切れそうな魔法民話みたいな話。フォークロアを支える前近代の精神が現代人にはどこか分からないように、この主人公も論理を平気で飛躍させる信用できない語り手だけど、これを僕はとりあえず、現代の残酷な現実に傷つき臆病になった人間の振る舞いかと思うことにした。臆病だから人に聞けず、自分の頭の中でこねくり回すしかない(しかも冗長であまり面白くない)。それくらい、世界が君から求めているものと君ができることには大きな隔たりがある。
 町田康の小説みたいな疾走感があるわけでもなく、淡々と世界の論理に振り回され、幽かな手がかりにすがりついてどうにかやり過ごしている一方で、誰かが感想で書いているように、これは傷ついた主人公が引きこもってじっと傷が癒えるのを待つために作った繭としての世界であり、現実逃避のための夢であり、主人公にとって都合のよい予定調和の世界でもある。それを熊の少女は肯定も否定もしないが、それでもそこで待っていてくれるのだ。