田中ロミオ『人類は衰退しました3』

人類は衰退しました 3 (ガガガ文庫)

人類は衰退しました 3 (ガガガ文庫)

 「・・・・・・すいぶんを、ごていきょうできるかも?」
 弱さをチラッとしか見せない、タフでずるい田中ロミオ氏のことだから、今回もうまく釣られた形になってしまうのだろうけど、ダメ人間的にはなかなか重い話になりそうでならないけど、でもやっぱり、という感じだった。
 水分、潤いはお茶であったり妖精さんであったり助手さんの目であったりして、それと反対なのが干からびた老人たちでありモニュメント計画や電気祭りであったりする、のかな?デジタルでバーチャルな刺激物に浮かれるわれわれの現代が干からびた遠い過去となってしまった世界では、訳のわからない亡霊みたいな妖精さんを飛び回らせていないと乾いた現実を乗り切れないほどに人類は息も絶え絶え。なんか泣けてくる、ロミオ先生の幻視っぷりに。
 民俗学の定説どおり、いい妖精の引越しは凶兆だけど、それは勝手な神話や迷信で世界を読まないとやっていけなかった中世の話で、その後発展した科学でも真理を究め幸せを究めることができなかった人類は、敗北者として歪んだ中世に行き着いてしまったというのがこの話の世界、ということなのかな。妖精さんなしでは気が狂いそうな孫娘は、自分がまだ冷静さを失っていないことを何度も自分に言い聞かせながら遺跡の中を進んでいく。走馬灯の中でおじいさんに「いい人生だったかね?」と聞かれ、「正直、あまり」と答える孫娘。電磁波を浴びて「・・・・・・しごとやめたい」と吐き出す妖精さん。上司たちから何度もネチネチと怒られ、髪を切られ、また怒られ、泣いて寝込む孫娘。全てシニカルに軽く描かれているけど、何だかこちらは世知辛さを読み取ってしまってどんよりとなる。
 外宇宙へと拡張の時代を謳歌するはずなのに、「寒さ」を感じて行き詰まる探査船。引きこもって電磁波から逃げる人類。後ろ向きな暗い未来。そんな世界に放り出された孫娘に感情移入しつつも、助手さんとの微妙な距離感やら、風呂に入れず匂ってしまう体臭やらに萌えてしまう変態読者。すいません。


 最近生活力がすごい勢いで落ちてきていてまずい。貴重な土曜日が寝ている間に一瞬で終わっている。野菜もお菓子も買いに出るのが面倒で、気分転換に何か作ろうにも気力がなくて投げやり(コーンフレークに牛乳とウイスキーをかけてみたけど気持ち悪かった。でも食べた)。インターネットを眺めているだけのダメな生活。僕も衰退しました。だらだらと眠るのが心地よい。


 弱音垂れ流しのこんなブログでも、時々でも読んでくださっている人がいるのは嬉しいです。ありがとうございます。bmp69さんやkagamiさんがエロゲーマー向けの参考図書を挙げていましたが、ああいうのからきちんと豊かなテクストによる作品感想という形で還元していければというのは一つの理想ではありますが、中途半端な知識と鈍い頭ではそんな硬派なものは書けず、かといってそれをカバーできるようなセンスもなく、月森さんのような落ち着きもユーモアもなく。あるのは美しくもない自意識くらいで、この自意識が許してくれるくらいの水準で、美しいことどものことを書いていければなあ、というのがとりあえずの方針です。いつも脊髄反射的な文章垂れ流している人間が方針とか言っても説得力なし・・・。
 名指ししてしまってすみませんが、月森さんのようなレベルのテクストを書く人がもう5人くらいいれば賑やかになるのにと思います。探す努力を怠っているだけで実際にはいるのかもしれませんけど。