猫撫ディストーション 柚

 ステレオタイプな見方になるが、女は論理でなく感情で動くものだというような流れの話だったと言えなくもない。世界を確定させるためのイーガンの万物理論的な観測者椅子取りゲームかと思いきや、結局は自分の感情を信じて押し通した柚の勝ちとなった。
 それは過去の歴史の重みとか健全さの感覚とか、そういう感情でコントロールしなければならないものに拠っているから、今回は(といっても誰にとっても一回性のもののはずだが)柚が勝ったけど、そんな柚だからこそ、自分が消してしまった可能性たちにこの先苛まれることもあるかもしれない。そしてそういう暗い部分も含めて彼女に寄り添い寄り添われることが彼女と選んだ未来ということになる。家庭環境とか七枷家への思い入れとか、明るく常識的な女の子に見えて案外影ががあるのが、ダメ人間の目には魅力的に映ってしまう。いやらしい見方だけど、しゃべり方が一本調子なのも、ある種のトラウマを暗示する欠損の象徴というか。素直な戸惑い方とか怖がり方とか見ていると、本当は家庭的な女の子なのだろう。