夏日 (60)


(ネタバレ注意)


 テーマ(知恵遅れの女の子とか)と声優さんたちの熱演はよかったけど、肝心の物語はいまいち。主人公が無神経で頭が鈍いので、せっかくヒロイン達が健気でも、痴話喧嘩か安っぽいメロドラマに見えてしまう。主人公は明らかに、このヒロインたちを背負えるほどの人間じゃない。テキストにもしまりがない。テーマやシナリオ構成は、ライター氏が苦労して自覚的に作っているだけあって、けっこう面白い感じなんだけど、ミクロなテキストレベルで迫力や魅力が感じられなかった。狼少女の明日菜の「嘘」は定型的で切れ味がないし、世話焼きな恵もやはりセリフは凡庸。キャラの魅力は設定・行動と声頼み。絵も、パッケージからして覚悟はできていたが、相当貧弱。田舎ゲーとはいえ、女の子たちの着ている服も貧相でかわいそうだった。というか、地味なのはいいとしても、もっとフェティッシュに描いて欲しかった。印象主義以降の絵画はデッサンより色彩を優先させて、線は狂っていても色と色の組み合わせを追及したと何かで読んだけど、デッサンも色もいまいちなのは寂しい。色のついていない設定資料集のラフ画は、ものによってはけっこういい感じなんだけど・・・。グラフィッカーってやつなんだろうか。

 精薄のちやに関しては、エロゲーでやるのはやはり難しいなと思った。綾川りのさんによる声は素晴らしく、エロゲーヒロインとしては異色のキャラクターになっている。ステレオタイプなセリフ運びをされるよりは、ある意味で超意味言語的な呻き声や唸り声のほうが、ずっと新鮮で豊かに響く。でもテンポがかなり遅くなってしまうので、声と貧弱な立ち絵だけではあまりもたなかった。「知恵のある」人間なら表情やしぐさも定型的になってくるので、エロゲーの立ち絵でもある程度はいけるけど、知恵遅れの人たちとコミュニケーションするときには、彼らの表情やしぐさや言葉の「異常さ」が独特の空気を作り出してくるわけで、その辺の演出は今作では音声に頼りすぎていて、視覚的な面では中途半端だったと思う。ライター氏もバランスの取り方に苦労したようで、同人での企画から出発して商業作品化した、ある意味で「うそっぽい」知恵遅れだと断っているし、ちやは知恵遅れである以前に(エロゲーの)女の子だといっている。もっと知恵遅れっぽいエピソードを入れて欲しかったなどとは僕も思わない。ただ、もっと大胆で面白い物語だったらよかったのになと思う(企画段階であったような民俗学色の濃いという意味ではなく――それもいいけど――、単に恋愛ドラマとして)。もともとエロゲーのヒロインは蔑称的に知恵遅れと言われることもあるのだから、何かすごい話を書くことは不可能ではないと思う。

 設定資料集でライター氏が作品やキャラについて少し語っている。作品がストライクしたときには野暮ったく感じてしまう解説も、こういう不完全燃焼な感想を抱いてしまったときには、製作者の込めた思いに触れて優しくなれるのでよい。それが皮肉なことだとか邪道だとかは別に思わない。

 ちなみにHは思っていたよりよかった。シナリオと結びついていたし、エロさもあった。喘ぎ声がゆっくりしていたのがよかった。ただし絵はいまいち。