魔法はあめいろ? (65)

 また長くなってしまった。いつかどこかで役に立つことを信じて残しておく。
 というわけで、いつものように書き流し〜


 ひよこ。
 薀蓄語りとキャラ立てはなかなか両立しない。レアな言葉を引き合いに出して持ってきて「・・・これは〜だけどね」とツッコミを入れてまとめるという手つきが野暮ったい。あるいは、実況アナウンサーみたいなハイテンションで、少しひねった定型句を畳み掛ける饒舌体の話芸・・・荒川工のテキストみたいな・・・この作品では「加速」と呼ばれているやつ・・・「芸」としてはいいのかもしれないけど、一人相撲をとっているように見えて少し距離をおいてしまう。主人公が寒いギャグを言っても「ははは、こいつ恥ずかしいなあ」ですむが、ひよこが一人でマシンガントークをして完結してしまうのには困る。このエネルギーを何か他のことに向けてくれと。笑顔が可愛いんだから。「ている・ている」と同様に、これだけ知識があるのに、その見せ方がいただけないなあというのが第一印象。主人公がヒロインを評するときに「すごい」「〜なのはさすがだ」「〜ちゃんらしい」を連発しているのがしつこく感じた。すごいものを「すごい」と言わずになんか別の形で表現するか、あるいはそんな野暮な解説自体を入れないでほしかった。主人公が野暮で控えめな人間なので仕方ない。むっつりすけべだが。
 女の子とは他愛のないお喋りをさえずり続ける幸せな生き物である、という男のファンタジーを喜ばせるような仲のよい三人組。この完成された世界に何のとりえもない野暮な男の入る隙、ましては恋愛が生じる隙はない。男はただ休み時間に遊びに来てくれる女の子たちに感謝し、すごいと嘆賞し、女の子トークに振り回されてうろたえるのみ。下心を抱くなんて恐れ多いとでもいうように薀蓄語りで誤魔化されたテキストが、そこはかとなくむっつりすけべーな感じ。人は誰でも心にすけべなところを抱えており、控えめな性格で童貞だと、それはむっつりすけべの形をとって表出するほかないのではないか、という考えが浮かぶほどに主人公のうろたえ振りが生々しい(キモオタキャラというふうに突き放されていないし)。すぐ謝り、すぐ取り繕おうとするその思考。それが、思い切って女の子をデートに誘ってみてOKされると、夜道をスキップしながら

来た! 人生のピークが! という感じだった。
うおああああ・・・

 ・・・不本意にも僕まで嬉しくなってしまったじゃないか。
 それからエッチまでがテンポがよすぎて逆にちょっと不安に。こんなに元気でいい娘が、こんなに短期間に、何のとりえもない年上の男をこんなにも熱愛するようになるものだろうか。エッチシーンでもあんなに可愛かったけど、でも本当に信じちゃっていいのですか?
 ・・・と思っていたら後でちゃんとフォローされていてよかった。しかしこの主人公、さっきまで臆病ないい子だったのに・・・・・・萌ゲーをやっていたと思ったらアトリエかぐやばりの抜きゲーになっていたというサプライズ。シリウスは初めてだけど、そういえばそういう評判だったのを思い出した。
 バカップル的な甘い雰囲気が丁寧に描かれていてとてもよかった。敢えてないものねだりをするなら、スケールの小さい話だったのが残念。恋の相手に出会って、戸惑って、自覚して、幸せになる話。読みながら一喜一憂した。あるのはほとんどこの流れ(とおっぱい)だけで、これを薀蓄やおしゃべりや反省やモノローグで埋める。わりとまともに読める文章なだけに、センス・オブ・ワンダーがないのがもったいない気がする。この作品世界のカラー(「あめいろ?」)がどんな色なのか定まらないけど、他のシナリオもやればいいのだろうか。始めは主人公に似て垢抜けないと思っていたBGMにはもう慣れた。ひよこの声(カーニバルの泉の吉川華生さん)はちょっと無理して高くしている感じがあったけど、これも何とか慣れた。絵は、おっぱいが大きいのは大変よろしく、表情が可愛いこともありプレイのモチベーションを保ってくれるけど、剥きだされたおっぱいはちょっとぶよっとしているし乳輪は大きいしで、若さが足りなく感じた。全体的にかなり肉感的だし、これで童顔というバランスも何だかツボなんで何度もお世話になってしまった。


 花苗。
 死にそうな幽霊のような話し方に笑わせてもらったけど、文末まですっきりと言い切るのが印象的だった。
 口数が少なく、言葉よりはイメージ(花や雨)で語るヒロインなので、このライターさんの文体の持つ個性的な鬱陶しさもあまり感じなくてすんだし、ヒロインの設定やストーリー的にも特に文句のつけようのない佳作シナリオ。剥き出しの少女趣味なのに嫌味な感じのしない、いい話だった。


 脱線。
 始めにも少し文体に関して書いたけど、また少し思い出したんで。この作品の言葉遊びのノリは古典の掛詞ととかのノリ、で合っているだろうか。枕草子とか。「誰がうまいこと言えと」的なタイミングで掛詞を繰り出して悦にいったり、応じてみたり、謙遜するように言い訳してみたり。親密なサークル内で通用する馴れ合いと符牒の雰囲気。
 昔から古典の授業でモヤモヤしたままだったんだよなあ。中世の読者はこれを読んでニヤニヤしたりしてたんだろうかと。古典の素養のない現代の一児童にとっては、古典の文中に織り込まれた掛詞はめんどくさい注釈と解説の対象でしかなく、そこに貴族の優雅な遊びの息遣いを感じ取って楽しむ余裕なんてぜんぜんなかった。だから古典は好きになれなかった。
 西洋では、トゥルバドゥールとかケニングとかの吟遊詩人系や宮廷貴族のアレゴリー系の伝統をのぞけば、掛詞みたいなレトリックの壁はそれほど高くない気がする。掛詞的なものがあったとしても、それはどっちかというと切れ味のある冗談だったり、あるいは現代人の目にはまったくおもしろくない空振りでそれが逆にシュールでおもしろかったり。
 まあ、文学史的なレアリズムの伝統の話をしても仕方ないけど、あえて言えばこの作品の文体は日本の古典の技法を使っているということになるのだろうか。文体のえらい人に怒られるかな。それが仲良しグループと恋愛という作品のテーマや、日本人のメンタリティや、本作のスケールが小さいことと関係があるかどうかは、よく分からない。


 恵美。
 これがエロゲーでなかったら好きになれない価値観に基づいたシナリオ(「大事なのは意図ではなく結果」とか、「人の上に立つのが好き」とか)。幸いエロゲーなので音楽や声や絵のおかげで楽しめる話になっていた。ルート分岐の仕方が後味悪いのが残念。顔と声の豹変振りがギャグの域になっていて笑えた。


 環。
 ミヤスリサさんの絵が全体的に童顔で胸が大きいので、環のキャラ設定があまり生かされていなかった。うなじだのくびれだのというムッツリな視線による描写が多いヒロインだし、もう少し繊細な線のデザインがほしかった。そっぽを向いた立ち絵はよかったけど、それ以外(特に一枚絵)は顔が横長すぎ・線が太すぎの絵が多くて、ちょっとデフォルメっぽい感じがした。エッチシーンがあまりエロく感じなかったのは、この大味なデザインのせいかもしれない。よくできた可愛いヒロインなだけにもったいない。シナリオの方は、はじめのエッチが犯罪的ということを除けば、手堅いものだった。鈍感主人公が多い萌ゲーにしては珍しくはじめから環一直線だったし(これがエロゲーでなかったらかなり傍迷惑なほど)、環のツンぶりも丁寧に描かれていた。体をもてあますヒロインという設定を生かしてもう少しフェティッシュな描写がほしかったけど(さっぱりした性格の環と変態的なシチュという取り合わせ)、田中ロミオならいざ知らず、「チェリッシュラブ」がテーマの本作では無理か。いちいち言い訳したり、手をつないだり、抱っこしたりといろいろとニヤニヤできる話でよかった。あとアイキャッチの「魔法はあめいろ」の声がよかった。


 ハーレム。
 主人公が「3人同時」にではなく「3人が1人の女性であるかのよう」に好きだ、でもそれは彼女たちを1人1人独立した人格としてみていなくてまずいのではないか、とかぶつぶつモノローグ始めるに及んで、これは、ヒロイン1人対男複数プレイがある意味でプレイヤーの欲望の分裂を男の分裂という形で現実化しているように、ハーレムというのはもともと1人であったヒロインを分裂させたのがマルチシナリオエロゲーであることを、現実化された比喩として示すものなのだ、とかいうような悟りの境地へ進んでいくのかとちょっと期待したけど、結局単に3人と同時の仲良くするというだけの話で終わった。
 100本以上エロゲーをやっていながら、ハーレムシナリオに何かしらの意味が与えられている作品が最果てのイマしかなかったので(クロスチャンネルはなんとなく違う気がする)、ハーレムの意味とかあまり考えたことがなかった。最果てのイマはエンディング付近ではもう頭がオーバーヒート気味だったのでハーレムの問題への解答とかあまり覚えていない。他にハーレム物といえば『きみとぼくの壊れた世界』だけど、これも「魔法はあめいろ?」もイマも、未来を想像できないものとしてしか提示できない、酒樽に一匙のタールみたいな不安を残す終わり方が基本だろうか。誰かハーレムのエロい人に聞いてみないと分からない。
 細かいところでは、このシナリオでは環のツン度が薄められていたのが残念だった。
 ヒロインたちも主人公も事態に舞い上がってしまって、甘くてドキドキな空気が醸し出されていたのがうまく描かれていてよかった。


 最後にいちおうまとめると、恋愛に舞い上がってしまうヒロインというのはエロゲーではよく見かけるけど、本作ではそれに特化しているだけあって、踏み込んだ丁寧な話になっていたと思う。主人公の舞い上がりっぷりも、まあ、微笑ましいの範囲内(一部、生々しい)。
 あとは、どうせ男の子になんて縁はないと心のどこかであきらめつつ、でもどこかで期待も捨てきれずに夢を見ていて、いざ男の子が現れると思わずちょっと浮かれてしまう女の子たちの仲良しグループ、という少女幻想を受け止めてくれるような優しい世界。ありがとうございました。