CHEERIO! (70)

悠ってこんなに背高かったんだな。というか天ヶ瀬先生小さいな。


(少々ネタバレ)


 適度に省略されていたり倒置されていたりして行間があるテキスト。主人公のモノローグや説明描写や一部の会話に揺らぎがあって、文意は明確に一つなのだろうけど、読み手に作用する(であろう)感情的なニュアンスが揺れ動くように変わっていくのがよかった。音楽が転調するように、クリックによって微妙に陰影を変えていくテキスト。クリックの間合いもけっこう細かかったりして、リズムに乗ったエロゲーならではの読み方ができたような気がする。音声がないのは物足りないけど、本作では地味ながら成功もしていると思う。
 さくらむすびと対極な感じ。さくらむすびは行間がなく、説明が過剰で、テキストは転調せずに一つところで足踏みを繰り返し、甘い(だけど実は不気味な)一つの音楽で包み込む。本作のモノローグは割りと息が長いというか、斜め後ろに戻ったりしているうちにいつの間にか話がついているというか。「それ」「そう」みたいな指示代名詞がアクセントをつけていたり、簡潔な文を半歩ずらして重ねたりするやり方は、印象はだいぶ違うけど麻枝准氏の文章と少し似ていると思う。会話もところどころステレオタイプな掛け合いから半歩ずらした感じで、水夏の第2章の感じをちょこっと思い出した。うーん、でもまあ以上はかなり誇張した性格付けなんで、実際はもっと地味でおとなしい。じわじわとところどころ面白くなったり普通だったりして、その曖昧さもまた地味に心地よい。
 各エピソードやストーリーの印象も地味だけど、だけどまあそれなりに、という感じ。天使のいない12月のような対人距離かと思いきや、主人公が普通のエロゲー風に態度がでかかったり明るかったり。一貫性はなんとなく感じられる。何か(受験勉強とか)がうまくいかない不安と、ふとした感傷的な気分と、流れていってしまう時間。すれちがい。こう書くと何がよかったのかよく分からないけど、実際のところ、メインヒロインのあきら以外はストーリーと呼べるものはあまりない感じで、ヒロイン達も自分の問題はどっちかというと自分で向き合って解決しているような気がする。というかすっきり解決できるようなタイプの問題ではなく、ただ受け入れて流れていっている。その子のそばにいることはただもう嬉しい腐れ縁なのだ(ヒロインはけっこう話が分かる感じだし、終わり方はけっこう明るい)。真っ白な画面にメッセージウィンドウだけどいうシンプルな演出のエピローグ。穏やかなピアノをバックに控えめなテキスト。それだよ。欲を言えばもっと続いてほしかった。


 ついでにおまけディスクの感想も。これは別に必要なかった。サイドエピソード集はなんかすごく普通な感じで、本編のような「リズム」は感じられなかった。音楽が一切なくてビジュアルノベル形式と言うのもなんらかの関係があるのかもしれないけど、やはり「ゆらぎ」を積み重ねていく過程がないからか、割と説明記述的なスタイルだからか、「音楽」だとしてもアンコール曲のようにさっぱりしたものだからなのだろう。
 ラノベ3-4冊分はありそうな「うどん定食」は、タクティクスのことをよく知らない僕にはかなり異色だった。無時間の世界。グラフォマニア(書狂)が筆のおもむくままに書いたような、ステレオタイプに無自覚な子供の小説。だと思う。”Hello, world”の悪夢が思い出されて途中からクリック連打で流したので、ほとんど読んでいない。軍事ネタが好きな作家さんは秋山瑞人以外はすごく相性が悪い。これでも絵と音楽が付けば痕みたいなエロゲーになってしまうのだろうか。古いラノベの世界に迷い込んだような、あるいは古い何かのSSでも手にとってしまったような感覚。でもこれは清く正しいオタク(おたく?)のあり方のような気がする。停滞と下降志向。このひそやかで静かな楽しみの場所はそれなりに大切で、いつか読めばほろりとしてしまうと思う。


 ヒロイン別に一言ずつ感想。クリア順に。ネタバレ気味。
 日向あきら。最初にあきらルートに進んだのは多分失敗だったのかな?ほかのヒロインを進めるにつれて印象が薄れていったのが残念。いい子なのに主人公がダメ気味。ドライブとかエピローグとかよかった。どんな気持ちで毎回主人公の前に現れるかを考えるといとおしくなる。もっと後々の話まで読みたかったなあ。
 天ヶ瀬琳子。怖い顔の立ち絵がかわいい。僕にとってエロゲーで一番不可解なトポスであるゲーセンが、かなり身近な感じがしたのはよかった。こういう年上と一緒だと幸せになれそうだなあ。というか歳を考えなくていいようなかわいい人。
 古雅たつき。正直なところ、クリアしてからすっぱり忘れてしまった。おねいさんみたいにはなるなよ。主人公に甲斐性があれば幸せにしてあげられそうな普通の女の子。不器用だけどかわいい。
 八坂悠。途中まで、ちょっとひねくれているだけであまりインパクトのないヒロインだったけど、横向きの立ち絵が出てきて、そのおっぱいの曲線にハッとした。その後は話も面白くなっていった。やっぱこのゲームは地味にいい。ピアノ曲もシンプルだけどテキストのおかげもあって悪くなかった。でも大丈夫かねこのカップル。
 杉浦真尋。楽しい妹キャラ。ストーリーが地味なんで印象は淡くなってしまうけど、キャラそのものはとても魅力的なはず。セリフのテンポがとてもよい。音声化したら失われてしまうだろうというジレンマを感じる。あんなに常時ハイテンションを強いるなんてひどい主人公だ。申し訳なくなるけど癒される。というか主人公よりもよほど大物だと思う。エピローグは混乱してよく分からなかったけど、あの雰囲気はいいしうまい。


 ストーリーゲーというよりはもっと儚い雰囲気ゲーなので、その印象を固定しておきたくて少し長めに書いてみたけど、結局あの感覚を捕まえることは出来なかったみたいだし、そんなものがあったのかさえはっきりとは分からなくなってしまった。分かればいいってものでもないし、まあこの辺で。