フロレアール (70)


 florealってフランス共和暦4月20日から5月19日までの「花月」のことなのだそうで。手元に仏和辞典もなかったし、バカなので「流れ出す現実」みたいな感じの造語なのかなあと思っていました。恥ずかしい。どちらもそれなりに合っているのでまあいいけど(OHPには「それは、若草色のファンタジィ」と書いてある)。
 なんというか、感想を書きにくい。主題は未来にキスをで綱領的に出されているものなので、あとはどんな過程を経てそこまで行くか、どんなモチーフを使うか、どんな様式を使うか、みたいなバリエーションの話になってしまうような。元長氏自身がそういう風にわざわざ自分のフィールドを狭めていく癖があるみたいで、なんかもったいないというか若さがないというか。これは本作の作品評価とは別に関係ないけど、本作自体も、開拓した処女地に軽く手をつけている程度で、そこをむしゃぶり尽くすような貪欲さがないので何やら淡白な印象。作品の構造においてはすっきりと完結しているのに、感慨は薄い。情感が薄い。哲学書が出てくることも聖書が出てくることもいいけど、それがけっこう普通の日本人向けの生な感じで、せっかく舞台がフランス南部の春の田舎なのに、そのエキゾチズムと結びついていない。設定なんてハリボテですよっていうのは本作に意地悪な読み方の一つではあるし、エキゾチズムなんてどちらかといえば低俗な趣味ではあるけど、異国趣味も語り方によっては異界への憧れになる。とはいえ、なんだかんだ言って、二人だけの穏やかな海辺の世界はそれなりに雰囲気があった。これが何で水仙花のあのドロドロの世界に(苦笑)。
 世界を壊してしまおうという陵辱のテーマについては、あの儀式のシーンでは、ヨナの話のすぐ後だっただけにアブラハムとイサクの話が思い浮かんだ。子供の頃にはまったく何も感じなかったけど、旧約聖書アブラハムは、鬼畜ゲーの主人公みたいに絶望的に錯乱していたんだなあ。というのは冒涜的な読み方かなさすがに。神を信じていたからその命令に従ったわけだし。というわけで本作とは関係ないけど、強引に結びつけるなら、神に逆らうはずの行為が神に従う行為と同じイメージで表されるというのは皮肉な話だなあと。
 絵のことも少々。パッケージの絵はきれいで可愛い。他のエロゲーもこれくらい目に優しいパッケージにしてくれるとありがたいのだが。HCGに関しては、おっぱいが小さくて地味なのが残念だった。あと絵が少ないのも(いまさら言っても仕方ないが)。一枚凄味のある絵があって、これは夜中に鑑賞するにはよかった。
 未来にキスをと比べると、本作はやはりキャラゲーとしての性格が弱いことが残念だ。メルンは可愛いけど愛玩動物みたいな位置。もっと近づくために、陵辱して痛みを共有するのが示された道なのだが、やっぱり昼と夜で割り切りすぎなのがいまいちなんだろうか。混ざって変態的になるといいのだろうか。そうなると若草色のファンタジィではなくなるだろうな。