素晴らしき日々雑感 意味の制御 (It's my own Invention)

 案の定重い話で、終わった後しばらく寝込んでしまった。前作は音声がなかったのでテンポよく読み進めていけたおかげで表面を滑っていった言葉が、今回はテンポが悪くていちいち重く残っているということがあるかもしれないけど、やはり僕の側の条件が変わったということがあるのだろう。
 卓司は世界を否定して、何とか自分の関与できるものに作り変えようとした。その要となるはずの神をどうしてもうまく想像することができなかった。"神の恵み"に触れたことがなかったから。自分の世界に閉じこもって外との接触を絞れば悪循環の輪が完成する。でも希実香が現れて風穴が開いた。旋律としての神を知り、二人だけだけど世界と同調した。遅すぎた。でも一瞬でも人生に意味のある瞬間があったのなら、その人生はそれでよかったのだと言っていた。それならこれでよかったのだろうか。どうせ死ぬなら、希実香と話してからでもそのままでも、ほとんど同じじゃないか。どちらにしても空に還るのだし、もうやり残したことはない、忘れ物があるとしたらそれはいらないものだと言っていただろう。それならあの旋律とダンスは無意味だったのか。この辺をどうもうまく割り切れなくて何行も粗筋をなぞるなんてことをしてしまったが、それでも割り切りたくないというのが本当のところ。単に逃避行物とはいえないもやもやがある。旋律のシーンを中心として、卓司の見た情景をぼんやり思い返しながら、結論めいたものは出さずにしばらく自分の世界に引きこもってしまうのが、僕にとっては必要な受け取り方のはずだということで、ちょっと寝込んだ。これがあるからエロゲーにはまってしまうのだけれど。で、結局卓司に希実香は必要だったのか。卓司は救われたのか。救われたのは卓司なのか。エロゲーの女神によるプレイヤーへの皮肉な贈り物なのかというと、解放された希実香の楽しそうな声を聞くととてもそうとは思えない。声や表情は理屈などよりもっと直接的なものだから、惑わせる。そもそも必要だったのかという問いの立て方は正しいのか。必要とか意味とかいうような後付けの分節化を拒み、”不連続存在”としてのナマの感触を少しでも伝えようというのがこんな終わり方につながっていたりして。ここにこれ以上とどまっていても仕方なく、次の章に進まなくてはならないのだけど、それもまたおかしな話だ。終わりに向かって加速しているはずの物語なのに、個々のシーンは停止して浮き上がっているような感覚を覚えさせるから。それらを平行して処理できるような救世主脳でもない限り、この感覚は次の章に進んだりすれば摩滅する。
 次の章に進む前にエッチシーンをまだコンプしていなかったので「正統派」の方の選択肢もやっておいた。終わると卓司は「まだやり残したことがなかったか」考え、「よく分からない」けど、希実香はもうないといっているしもういいのだろうということですべてを終わりにする。何度も作中で引かれているように、世界は内側からは認識できないわけで、世界そのものを相手とすることにした時点で、物語はこうした宙吊りにできるような不穏な隙間を抱えたものにならざるを得なかったし、それなくしてはあの旋律とダンスは本当に意味のないものになっていたのだろう。