西尾維新『猫物語 白』

猫物語 (白) (講談社BOX)

猫物語 (白) (講談社BOX)

ネタバレ注意・・・

 思春期の高校生が書くならまだしも、30を過ぎたおっさんの感想としては残念すぎるといわざるを得ないが、それでも書いておこう。高校生大学生の頃に直面した問題は年を重ねて環境が変わったことでいったん取り除かれ隠されてしまっただけで、決して自分が成長することによって根本的に解決されたわけじゃないから、何かの機会に自然な反応として漏れ出てしまってそれが年を取れば取るほどかっこ悪いものとなったとしても、何かに対するある種の罰のようなものなのだから仕方ない。だからこそこんな風に反応してしまう西尾維新の作品では、キャラクターが余り成長しないことを見越して(あるいは成長させたくないということを反映して)そのキャラが年を取って老醜を晒すところは描かれず、若さが全てを許してしまうという枠組みの中で実験が行なわれているのだろう。
 どうやら今作では羽川翼が「成長」してしまう。読者の自分としては阿良々木への恋をそれ以外のものに対する嫉妬とともに彼女の語りで聞かされ、彼女の成長を見せられることで、今回はほとんど物語に登場しない阿良々木君に対する嫉妬を覚えざるを得ない。高校生くらいの頃にはよくあることだろうが、密かに好きだった女の子が自分の友達に告白した話を聞かされるようなものだ。自分は弱いキャラだからそこで悔しがったり悲しんだりましてやキレたりするようなそぶりを見せることはできない、寝取られ未満の中途半端な敗北を味わう。そんな自分は「切り離し」てこれまで通りの笑顔でい続けることしかできないだろう。小・中・高と自分は勉強のできる真面目でうぶな優等生キャラで通ってしまっていて、それを崩せるような勇気も頭のキレもなかったので、切り離していたはずのことは多い。今でも克服できたわけではないけど、自分の話す言葉にリアリティ(たぶん責任も)を持てないというロマン主義のイタいパロディのような症状をこじらせて、じゃあお前なんで俺にそんな話したんだよとキレられたこともある(まったくだ)。そういう意味で羽川翼の問題は僕の問題をもえぐり続け、彼女が成長してしまったとしたら僕は喜んでいいのか嫉妬したらいいのか分からない状態になる。醜い話だが、彼女が振られたことで希望が残されたのかもしれない。
 感情を切り離すなんて漫画じゃあるまいしと彼女は自分で評すけど、それを読まされてこんなことを書いている読者はいつのまにか自分の人生に漫画的なリアリティと責任感しか抱けなくなってしまっているわけで、だからこそこういう過剰な読み方をする必要性はあるのだろうと思って書いてみる。純粋に作品としても、今まで阿良々木君に完璧超人としてひたすら崇められていた羽川翼が、実はこんな問題を抱えた人間だったということが分かったのには感慨深いものがある。戯言シリーズにおけるクビシメロマンチストのように、僕にとっては物語シリーズの要となる作品かもしれない。