滝本竜彦『異世界ナンパ』

異世界ナンパ 〜無職ひきこもりのオレがスキルを駆使して猫人間や深宇宙ドラゴンに声をかけてみました〜(滝本竜彦) - カクヨム

 165話の発表から1ヶ月以上経っているが、ライブとかあるので一休み中ということらしい。この直近のオークや闇の女神が出てくる話のあたりから、いわゆる燃え展開のようなインフレ異能バトル物になってしまって、小説としての面白さは薄れた。それまで偶発的に発動してしまったり後発的に獲得してしまったりしていた「スキル」を意図的に使いこなせるようになった結果、普通のなろう小説っぽくなってしまったというのがあるし、女体化した主人公が……という展開に引いたというのもある。来年1月に第三部「現世編」連載開始ということらしく、果たしてまた面白くなるのかは分からないけど、少なくとも途中までは滝本氏らしい丁寧や自己認識描写や文学功利主義やユーモアが楽しい小説だった。それにしてもこの投げやりな作品名よ……。まあ、18世紀以前のヨーロッパ文学はこういうのばっかりだったから(19世紀以降はどちらかというとパロディネタになった)、日本の大衆文学が文学的伝統に回帰したみたいで面白いけど……。
 以前の『ライト・ノベル』の感想では、「これが究極の答えであり、滝本氏がもう何も書かないというのなら、この作品を何度も読み返して何かを掘り当ててみたい気もするが、もっと「よい」次の作品を書くというのなら、そっちのほうが楽しみになってしまうのかもしれない」と書いたが、そうして発表されたのが今回の作品だと考えるなら、今回はもう少し読み物としての面白さ、読書体験の面白さに立ち返りながら、セラピーとしての小説に挑戦したということなのかもしれない。分かりやすい読み物になっている分、『ライト・ノベル』より間延びした感じがする。最後のオークや闇の女神のあたりの展開はその方向性からは逸脱したように見えるが、これも今後の展開やまとめ方次第なのだろうか。もし、このまま更新がなく中断されたままだったとしても、それはそれで面白い気もする。主人公はインフレの果てに設定を抱えすぎてパンクして死んでしまい、結局、ナンパで物語を回す必要はあったのだろうかというメタ的にも虚無なエンドだ。そもそも、ナンパの修業を終えて無事に強くなった主人公を見て、それでハッピーエンドで面白いだろうか。そんないにしえの宮台先生的な強迫観念から逃走するのが滝本氏のスタート地点なのではないのか。その先に向かうのがセラピー文学だけというのが滝本氏の答えなら、そうですかと納得するしかないし、それだけではないと期待させてくれるならありがたい。そんな貧しい読み方になってしまうのは半分は読者のせいなのだろうけど、今回はお気楽な読み物風の作品だから短絡化もされやすい。エンディングが悩ましいのは滝本作品の宿命なのだろうか。